
佐藤初女さんのおむすび
「佐藤初女さんの心をかける子育て」という本をご存知ですか?
その本には、おむすびがよく登場します。
どんな人でも、心の中までほかほか温かく、元気になれる不思議なおむすび。
そのヒミツを紐解いてゆきます。
教育者である佐藤初女さんについて
初女さんは青森県弘前市郊外にある、森のイスキアという宿泊施設で、心が疲れ切ってしまった方や、重いご病気を抱えている方など、助けを求めて訪れるすべての人を無条件に受け入れていました。
そしてただ寄り添い、お話にじっと耳を傾け、手作りの素朴ながら手の込んだ美味しい料理を提供し、食事と生活を共にしていきます。
これといってアドバイスをするでもなく、特別何かを教えるわけでもない。
宿泊者の方々は、美味しい心の籠った食事をして、ゆったりとした数日を過ごしているうちに元気を取り戻し、それぞれの居場所へと帰ります。
今回は、初女さんのつくる心のこもったお料理の中のひとつ、「おむすび」をご紹介。

みなさんはごはんをどんなふうに炊いていますか?
お米は新米や古米など酒類によって水分の量が違います。
一律に何合のお米に何カップの水というふうにはいきません。
初女さんは、最初にお米を洗ったら、そのお米に対して大体の量の水に浸しておき、30分たったところでお米をつまみあげて吸水状況をみます。
お米は水を吸うと白くなるので、まんべんなく白くなっていたら水の量を減らし、まだ透明の部分が残っているようなら少し水を足して、それから窯のスイッチを入れます。
このほんの少しの手間で、ふっくらとおいしいごはんが炊けるかどうかが決まると、初女さんは言っています。
何年もかかって覚えたおむすびの握り方
初女さんが入院したときのお話。
同室の隣のベッドには、小学校の先生が入院していました。
その先生のお見舞いに来ていた小学生の娘さんは、次の日遠足だというのです。
「おむすびを握っていきなさい、でも水をつけたらだめだよ。塩だけで握りなさい。」と、先生はいいます。
塩だけ?と思った初女さんは、あとから先生に尋ねると
塩を両手にまぶしたところに、熱いご飯がのると水分になるから、それで握るというのです。
また、のりをおむすびの大きさにぴったりと合わせて切るということは、お手伝いをしてくれた人から教わった、と初女さんは話しています。
このように、ひとつのおむすびの握り方を、ご自身の出会いの中で見聞きし、何年もかかり苦労して覚えたそうです。

人としての生き方を教えてくれる、初女さんのおむすび
おむすびを握るときは、ギュッとおしつぶさず、ごはん一粒一粒が呼吸できるように手のひらでふんわりと包むようにするのがコツ。
おいしいごはんの力というのは不思議なもの。
悩みをかかえて食べづらくしている人も、おいしいいごはんを食べると、だんだん生気を取り戻し、言葉がはっきりしてきます。
「食べ物はこんなに元気をくれる」と実感しているのですね。
正しい食というのはどういうものかというと、それは「手作りのもの」であるということです。
正しいことは、小さいことひとつひとつが積み重なってそうなるように、正しい食にも過程があり、ひとつひとつをきちんとやっておいしいものができます。
わたしたちは食べることで生きていますし、食べなければ生きていけません。
つまり、たべるものそのものも命と考えます。
命をいただくのですから、その命をいかすように、丁寧に調理しなければなりません。
おなかに入れれば同じと思うのではなく、手数をかけて、時間をかけて、心をかかける。
食事も子育てもいっしょです。
さいごに
「佐藤初女さんのこころをかける子育て」は長女が生まれたばかりのころ、はじめての子育てに戸惑っていた時に手にとった本。
子育てに限らず、生きるための基本的なことが書いてある、今でも大切な本です。
初女さんは、おむすび一つ作るのも、ご飯を炊くところから、丁寧に「命」と向き合っています。
だから初女さんのおむすびを食べた人たちは、みんな元気になっていきます。
ごはんも子育ても手は抜けないぞ、って背中を押されます。
いつでも初心に返れますね。